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創作のようなもの、とか。
No.
2024/05/07 (Tue) 01:09:18

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No.8
2011/11/18 (Fri) 22:47:21

 初夏だというのに熱帯夜の寝苦しさに浅い眠りから醒める。
 汗に塗れた背を拭きながら男は窓の外を眺めた。
 雲の無い空に輝く星々は美しい。
 彼は気分転換に夜の散歩に出かける事にした。

 男が訪れた庭園は、まだ日付が変わったばかりの時間帯にしては珍しく人の気配が無い。
 その方が気が休まる、と大きく息を吸い込んだ男は湿った草花の青臭さに風流を感じた。
 ぱしゃ。
 水音がしてそちらを振り返る。
 月明かりに淡く光を放つ金糸雀色の髪をした女が石造りの噴水の淵に腰掛けていた。
 素足を水に浸している為、男からは背中しか見えない。
 水遊びの音に混じる女の声は、どうやら何か歌っているようだった。
 男は耳を済ませるが聞き取れる歌詞は異国の言葉か、全くの出鱈目だった。
 しかし、その旋律にどこか懐かしさを感じる。
 女が掬った水が指の間から零れる際に青白い燐光を纏い、重力に逆らい浮かび上がる。
 噴水を囲うようにして、発光する水滴は蛍の群れのように漂った。
 更に、女はもう片方の手に持っていた白い花を水に浸して振り上げた。
 花弁が剥がれ落ちるようにして魔力の込められた水が蝶の形に変わり、ひらりひらりと優雅に舞う。
 魔女の作り出す、まるで夜空が降りてきたような幻想的な光景に男は我を忘れて見入っていた。
 不意に歌が止み、彼女がこちらを振り向いた。
 視線が交わった男はどきりとする。
 そして、ぐるりと世界が回り目の前に鮮やかな緑が広がった。
 芝に倒れこんだ痛みは感じなかった。
 男はもう一度魔女の姿を見ようとしたが、それよりも早く意識が闇に溶け込んだ。

――どれぐらい経っただろうか。
 男が目を覚ますと、そこは木の根元だった。
 暑気に中てられたのではないかと考えながら起き上がる。
 空を見上げ、月と星の位置で数時間の経過を知った。
 次に噴水の方に目を遣るが、誰もいない。
 やはりあれは夢だったのだ。
 納得した彼だったが、その足は無意識の内にそちらへと向かっていた。
 夢の中で女が座っていた位置に腰を下ろし、思い出せる限りの旋律をなぞってみる。
 正しい音を思い出せないままハミングする男の前を一頭の蝶が横切った。
 彼は青白いそれを目で追う。
 水滴の蝶は羽ばたく度に翅を崩し、やがて夜空に溶けていった。

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No.7
2011/11/18 (Fri) 22:45:08

「おかえりなさい、エリル」
 村へ戻ったエリルを迎えた少女は春の陽気のように暖かい。
 その笑顔に心身の疲れが剥がれ落ちていくかのようだった。
「キアラ」
 彼女に丁寧に包装された袋を突きつける。
「土産だ」
 どこからどう見ても横柄な態度だが、エリルの不器用さを知っている彼女は微笑みを絶やさない。
 キアラは子供のように期待に顔を輝かせながら袋を開ける。
 赤い宝石の指輪が一つ。
「わあ、素敵! ……あら? 薬指には大きいわ」
 その場で着けてみせた彼女に、エリルの青白い顔が熟した果実の色になった。
「そっ、そういうのじゃない!」
 冗談よ、とキアラは笑って見せる。
「ありがとう」
 黒い影が彼女を呑み込んだ。


「――っ!!」
 男が目を覚ます。
 どうやら座ったまま居眠りをしていたようだ。
「随分魘されてたけど、もっと早く起こした方がよかったか?」
 対面に座る少女の顔からは心配している様子は読み取れない。
「……あんたにも弱いとこあるんだな」
 ああ、と頷いた男は間を置いて言った。
「私は弱い」

No.5
2011/11/18 (Fri) 22:45:04

 ある日、エリルは深い森の奥で素手で深雪を掘り返していた。
 息を白く濁らせながら無心に掻いていると、やがて石を積んだだけの簡素な墓が現れた。
 灰色の墓石の前に雪色の花を供えて手を合わせる。
 死者への祈りが終わると、彼女は雪の上に座り直した。
「……一年ぶりだね」
 僅かに露出した土の下に眠る人物に語りかける。
「今年は久々に期待できるのが入ってきたよ」
 エリルは近況や他愛も無い世間話を聞かせる。
 しかし口下手な彼女の話の種はすぐに尽きた。
「……それじゃあ、また来るよ」
 立ち上がって雪を払うと、エリルは誰も知らない寂しい墓を後にした。
 自らの足跡を遡っていくと徐々に積雪は少なくなっていった。
 樹木も白粉を落とし、緑で着飾っている。
 靴に付着した氷の粒は解けて土と混じり泥になる。
 荒れた道を行く人を虫の鳴き声が出迎える。
 それが囁き声から大合唱へと変わるにはそう距離はいらなかった。
 滝のような蝉時雨にエリルは舌打ちをする。
「ああうるせえ、だから夏は嫌いなんだ」
 冷気を纏い、霜で足跡を残しながら彼女は森を抜けていった。
No.6
2011/11/18 (Fri) 22:43:37

 活気づいた街に不機嫌そうな少女が一人。
 人の群が苦手な彼女にとってはこの場に留まるのは苦痛でしかなかった。
 それでも街中を歩くのは、付かず離れず追っている人物がいたからだ。
 人混みに紛れつつ前方を行く人物を速やかに暗殺しなければならない。
 今も尚、彼女は低い位置から視線を離さず機会を伺っている。
 すれ違いざまに肩がぶつかった標的の足が止まったのを見て、エリルの足が速まる。
 互いに軽い謝罪をしてから再び歩きだす前に追いついた――
 と同時に目の前の獲物が地面に崩れ落ちた。
 目の前で痙攣する人物をエリルは驚愕の表情で見下ろしていたが、すぐに振り返る。
 標的とぶつかった男が野次馬の向こうで走り去る姿がかろうじて見えた。
 エリルは舌打ちをして人の波を押し退けて市街地を駆けだした。
 路地裏に入ると、男が配水管をするすると伝って屋上へと向かっていた。
 小さな手が建物の外壁に翳される。
 すると、メキメキと音を立てていくつもの氷の板が芽が生えるように現れた。
 即席の階段を駆け上がり、屋根から屋根へ飛び移る逃走者を追う。
 足場の不安定な追いかけっこは成人男性より歩幅の狭い少女の不利かと思われた。
 しかし、屋根の縁を踏むエリルの足下からは透明な橋が伸び、体格の差を補っていた。
 徐々に距離を詰められていく男が突然振り返った。
 きらりと光を反射して凶器が放たれた。
 だが、反撃を警戒していたエリルはすんでのところでかわし、その青い髪を掠めただけに終わった。
 不意打ちをし損じた男が小さな追跡者の姿に目を丸くしたまま天を仰ぐように背から飛び降りる。
 エリルが駆け寄ると、男は荷馬車に積まれた藁の山から転げ落ちるところだった。
 しかし、高低差をつけてしまったのは男の失策だった。
 冷静さを失わない少女は屋上から逃げる姿を確認して先回りし、窓枠や手摺に掴まって勢いを殺しながら地面へと降りた。
 背後を気にしながら走ってきた男が回り込んでいた追跡者に驚いて止まる。
 だが、抜け目無い能力者によっていつの間にか張り巡らされた氷に足をとられ、無様にも転倒してしまった。
 コツコツと靴音を立てて近付くエリルの手から気泡の混じった刃が伸びる。
「誰の指矩だ」
 刃先を仰向けに転がる男の喉元に突きつけて問う。
 男は無言で彼女を睨みながら、こっそり袖から出したナイフを握る。
 が、その手を少女に踏みつけられる。
「ぐぅ……っ!」
「別に始末しようとか思ってない。……私とは別の依頼人、という事でいいのか?」
 男は相変わらず殺気に満ちた眼差しを向けている。
 エリルが大きく息を吐くと、辺りの冷気が和らぎ、氷が溶け出した。
「んじゃな、もう会う事は無いだろうけど」
 悠々と去っていく後ろ姿を恨みがましい目付きで見送りながら男が起き上がった。
「……くそっ!」
 同業とはいえ年端もいかない少女に見破られた上に、敗北ともいえる醜態を晒す破目になったのだ。
 暗殺者としての男のプライドは無残にも引き裂かれていた。


 その出来事は仲間内の雑談のいい肴になった。
「へ~、タゲが被ることなんてあるんですね」
「結構あるよ。目の前で横取りされたってのは聞かないけどね」
 当の本人は雑談の中心で難しい顔をしていたが、唐突に声を上げる。
「よしお前ら、鬼ごっこするぞ」
 皆の都合を無視して勝手に決めた彼女の目は爛々と輝いていた。

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いみん
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MH3Gとマイクラにハマり中。

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